アンフォルメル
戦争が終わっても、廃墟の記憶は画布から消えなかった。ヴォルスが小さな紙にインクを垂らし、線を震わせながら引いたとき、そこにあったのは形の崩壊そのものだった。アンフォルメルとは「不定形」を意味し、幾何学的な抽象とも具象とも異なる、輪郭を持たない絵画のあり方を指す。それ以前の抽象画が均衡や構成を追求したのに対し、この運動は偶然の染み、荒々しい筆致、絵具の物質感そのものを主題に据えた。計画された美ではなく、行為の痕跡が絵になるという考え方が、ここで初めて前面に出てきた。
背景には第二次大戦の破壊がある。都市も身体も理性も、かつての秩序を失った。フランスの批評家たちは、幾何学的抽象がなお保持していた調和への信頼を、もはや素朴に共有できないと感じていた。マチエール(絵肌の物質性)への関心も強まり、アルベルト・ブッリは麻布や焦げた素材を縫い合わせて傷そのものを画面にした。アントニ・タピエスは砂や大理石粉を混ぜた分厚い絵肌に、壁の亀裂のような線を刻んだ。絵画はもはや窓ではなく、物質が置かれた場そのものになった。
エドゥアルド・チリーダは金属を叩き、彫刻でも同じ不定形の思想を追求した。アスガー・ヨルンやカール・ヘニング・ペデルセンは北欧の神話的想像力を荒々しい色面に溶かし込み、アントニオ・サウラは歪んだ人体を黒と赤の激しい筆致で描いて、スペイン内戦後の重苦しさを刻んだ。エンリコ・バイやガンター・ユッカーのように、後に釘や日用品を素材に取り込む作家も現れ、絵画の枠組み自体を揺さぶった。
この運動は、同時代のアメリカにおける抽象表現主義と響き合いながら、絵具や身体の動きそのものを作品の内容とする発想を美術の中心に据えた。後のアルテ・ポーヴェラやマテリアルを重視する現代美術は、ここで開かれた地平の延長線上にある。作品を前にしたときは、何が描かれているかを探すより、絵肌の厚み、亀裂、擦れ、垂れた跡といった痕跡そのものに目を凝らすとよい。そこには意味以前の、手と物質の直接的な格闘の記録が残っている。